政府は今年4月、観光政策の柱として進めているカジノを含む統合型リゾート施設(IR)について、大阪府・市が提出した整備計画を認定した。整備計画は基準をギリギリで上回る点数で認定され、国土交通省は7項目の条件を付けた。IR計画について住民投票を求める署名活動を行ってきた市民団体は、国に認定取り消しを要請するなど反対を続けている。(山田祐一郎)
◆市民団体「及第点ありき」
「統一地方選で大阪維新の会が大阪府、市議会で過半数を獲得した直後の認定。ぼろぼろの報告書は『及第点ありき』で政治的判断が働いたことが明らかだ」。6月23日、大阪IR計画の認定取り消しを求め、市民らが国会内で院内集会を開催。市民団体「夢洲(ゆめしま)カジノを止める大阪府民の会」の山川義保事務局長がこう訴えた。
「ぼろぼろの報告書」とは、有識者でつくる政府の審査委員会の審査結果報告書のことだ。5分野25項目で1000点満点中600点以上が合格点なのに対し、657.9点で評価は6段階の中で上から3番目の「B(優れている)」だった。静岡大の鳥畑与一教授(国際金融論)は「6割で『優れている』と評価されるのはびっくり。よくこの内容で合格にしたものだ」と改めて批判した。
審査委員7人の採点の平均点が配点の6割を下回ったのは「カジノ施設のデザイン等」「地域との良好な関係構築のための取組」「観光への効果」の3項目。委員からは、「ギャンブル依存症への対策」について「(計画には)実効性のある早期発見・早期介入のための取組の記載があまり見られず、今後の具体化が必要」。地域との関係は「課題が残る」と指摘された。
◆依存症対策・地盤沈下…懸念置き去り
認定に際し、国は「実効性ある依存症対策」「地域との十分な双方向の対話」「予定地で懸念される地盤沈下の対策が不十分なものとならないよう検討すること」など全7項目を条件として大阪府・市に求めた。条件を満たさなければ認定は取り消されるのか。集会で観光庁の担当者は「7つの条件は認定の必要条件ではない。既に認定はされている」と否定した。
認定から2カ月余。審査委員会の評価について、大阪府IR推進局の担当者は「国のほうで点数を付けていただき、『認定しうる計画』と評価を受けたと感じている。一方で、7つの条件については真摯(しんし)に受け止めている」と説明する。条件に対する具体的な取り組みは進んでいるのか。「今後、開業までに取り組むことになる」とする。
府と市は今後、事業者と協議を進め、夏ごろをめどに着工時期や運営体制などについて定めた実施協定案を国に申請する。認可を得た後、契約締結などを経て着工される。当初「早ければ2029年秋から冬ごろ」とされていた開業時期について、府の担当者は「計画認定が想定よりも遅れたため流動的となっている」という。
予定地の人工島・夢洲について、大阪市は事業者からの要請で液状化や土壌汚染対策費として約790億円を負担する。住民らは昨年、府に住民投票条例制定を直接請求するための署名活動を実施し法定数以上の署名が集まったが、条例案は府議会で否決された。
数々の懸念が置き去りのままの現状に、阪南大の桜田照雄教授(経営財務論)は「報告書の7つの条件は、審査委員の意見を反映したもの。住民の合意がなく、高い国際競争力もない。地盤沈下・土壌汚染による負担増加が懸念されており、要求する基準を満たしていない。これらの条件をクリアしないまま認可を行うことは許されない」と訴える。