新型コロナのオミクロン株による感染が急拡大する今、自宅で過ごす時間が増えている方は多いと思います。テレワークでオンライン会議を行ったり、会社の資料を取り込んだり。動画配信サービスでお気に入りのドラマを見入ったり。
こうしたネット利用に欠かせないデータの拠点、データセンターが実は危機的な状況に置かれています。最悪、ネットが使えなくなりかねないというのですが、何が起きているのでしょうか。(経済部記者 野中夕加)
データ量が爆発的に増加
データセンターと聞いてどのようなイメージをお持ちでしょうか。
デスクトップPCのきょう体が巨大化したものがずらりと並んでいる、ちょっと縁遠い感じでしょうか。
しかし、実は私たちがLINEで友人とやり取りできるのも、YouTubeやNetflixでおもしろ動画やドラマに感動できるのも、ネット通販でつい「オトナ買い」ができてしまうのも、すべてデータセンターがあるおかげなのです。
それだけではありません。
あらゆる社会でデジタル化が進む中で、データ量は日々、飛躍的に増え続けています。
コロナ禍でネット通販の利用が急増しただけでなく、企業が自社サーバーからクラウドにデータを移行していること、さらにビッグデータの収集とAIによる解析によって膨大なデータの行き来が起きているほか、5Gによる通信の高度化もあります。
近い将来、自動運転や遠隔医療、工場のIoT化によってデータ処理はさらに増えることが見込まれているのです。
政府の資料によれば今後10年間でデータの量は現在のおよそ30倍に増えると予測されています。
「データは21世紀の石油」とも呼ばれ、それを格納するデータセンターが極めて重要だというのもうなずけます。
危機1 中国がデータセンター大国に
その重要なデータセンター、アジア太平洋地域では中国が圧倒的な存在感を示しています。
データセンターの面積で比較すると、中国がダントツ。2位の日本は中国のおよそ4分の1しかなく、その差は拡大傾向にあると言われています。
さらに中国を始め、各国はデータに政府がアクセスできるようにしたり、その国に保管することを義務づけたりして、企業や個人からすると管理の信頼性が揺らいでいるような状況です。
このような情勢で日本国内に信頼できるデータセンターが足りないとなってしまうようではかなり危機的だといえると思います。
危機2 大災害のリスク
危機的な状況は日本国内にもあります。
それはデータセンターの所在地です。
およそ60%は関東に、およそ24%は関西に集中しています。
新設の動きがあるのも首都圏が中心です。
なぜ大都市圏に集中しているのか。
答えは簡単です。
人口が多い都市部には、それだけ需要があります。
企業や国の情報を扱うデータセンターは、通信の反応が迅速であることやシステムに不具合が発生した場合に速やかに対応できなければなりません。
このため、運営する企業は都市部での整備を進めがちというわけです。
しかし、首都圏では今後30年以内に70%の確率で首都直下地震が起こるとされています。
関西でも南海トラフ地震が起きた場合、大きな被害が出ることも予想されます。
データセンターは地震に強い構造にはなっているものの、もし深刻な被害が出ると、さまざまな通信サービスが全国的にストップしかねず、重要な社会インフラを維持できなくなるおそれがあるのです。
データセンターを地方に分散
このため、政府は重要なデータセンターを地方に新たにつくり、東京、大阪への依存度を下げようと真剣に考えているのです。
経済産業省と総務省は、去年10月に地方分散について検討する有識者会議を設置。
ことし1月、議論の中間的な取りまとめを行いました。
このなかでは、地方データセンター整備にあたって重視する項目をあげています。
1.災害時でも影響を最小限に抑える
2.再生可能エネルギーが使える
3.データを「地産地消」できる
まず1は、現在集中している東京や大阪から離れた場所に設けることです。
もともとデータセンターは強固な地盤に設置されることが多く、建物自体も地震に強い頑丈なつくりになっています。
ただ、データセンター自体に被害がなくても、電力網や通信網が途絶えれば機能が損なわれます。
このため、広域災害時にも「共倒れ」することがないだけの距離をあける必要があります。
そして、2の再生可能エネルギーを使えるかどうか。
データセンターは大量の電力を消費します。
脱炭素が求められるなか、太陽光や風力など再生可能エネルギーへのアクセスがあるかどうかがポイントになります。
最後に3のデータの「地産地消」です。
データセンターが近くにあったとしても、誰も使わないようでは地方を素通りしてしまいます。
データの使い手であるIT企業やインターネットプロバイダーなどが近くに拠点を構え、データの「地産地消」ができるかどうかが重要になります。
政府も分散のため支援
政府は地方でのデータセンターを設置するため、500億円の基金を設けました。
新年度・2022年度から企業がデータセンターの建設やサーバーの導入にかかる経費の半分を補助するほか、立地に前向きな自治体が、候補地を調査する費用も半分補助する計画です。
地方は経済効果に期待
地方のデーターセンターとはどのようなものなのでしょうか。
1つの成功例として10年余りにわたって、誘致に力を入れてきた北海道のケースを見てみます。
着目するきっかけとなったのは、北の大地ならではの冷涼な気候。
サーバーから出る熱を冷やすため冷房が欠かせないデータセンターは、地域の特性に合っていると考えたのです。
新設や増設を促すため、企業向けに北海道が独自の補助金を用意したほか、東京での説明会や道内での視察会も続けてきました。
現在では道内で39か所のデータセンターが立地しています。
このうち、道内最大のデータセンターがあるのが札幌市の北側に位置する石狩市です。
2011年から、クラウドサービス事業者が運営を始めました。
冷涼な外気を冷房として活用することで消費電力を大幅に抑えられるのが特徴で、都市部にある一般的なデータセンターと比較して、消費電力はおよそ4割少なくなっています。
今後石狩市では、バイオマスや洋上風力による発電も始まる予定で、100%再生可能エネルギーで運営するデータセンターの建設計画もあるということです。
また、データセンターの誘致は、周辺のIT関連産業の誘致にもつながりやすいといいます。
データセンターそのものが地域の雇用に与える影響は、大規模な工場などと比べると限定的ですが、定期的なメンテナンスに人手は必要ですし、関連産業によって雇用が生まれることに期待は大きいそうです。
北海道産業振興課 谷野直行課長補佐
「地方分散の方針は、誘致に取り組んできた北海道としては非常に追い風です。支援制度も大きく打ち出されたので、誘致の後押しになると期待しています。道として、IT関連産業の誘致も併せて進めることで、地域の雇用の受け皿をつくっていきたい」
競争激化に課題も山積
データセンターの地方分散を進めたい政府と、地域経済の起爆剤を取り込みたい自治体。
互いの思いは合致しているようですが、今後は自治体間の競争が激しくなることも予想されます。
さらにもっと根源的な課題もあります。
中国などに比べて相対的に電気料金が高いことに加え、再生可能エネルギーの調達や巨大なセンター建設のコストが高いことが指摘されています。
そして、先に「データの地産地消」と述べましたとおり、データを扱うITサービスがどれぐらい展開されるのか、その利用者がどれぐらい増えるのか、つまりは国内でのデジタル化の進展度合いにすべてがかかっていると思います。
経済部記者
野中 夕加
2010年入局
松江局、広島局、首都圏局を経て現所属
現在は経済産業省を担当