「令和の米騒動」…大阪府「10キロ現物支給」はあり?なし? 割れる賛否の声を聞いて考えた:東京新聞 TOKYO Web

米の収穫風景

 止まらぬ物価高。そんな状況を踏まえ、大阪府は18歳以下の子ども全員に米10キロを支給するという。ありがたい家庭もあるだろうが、クエスチョンも多い。なぜ米を? なぜ子どもだけ? なぜ所得制限なし? 賛否が割れた今回の支援。物価高の折には何をどう支給すべきか考えた。 (特別報道部・木原育子)

◆「給食頼みの家庭も多い」

 「子どもはよく食べ、よく育ってください。未来を応援しています」。先月25日、大阪府の吉村洋文知事が自身のツイッターを更新。胎児含む18歳以下を対象に米10キロ(5000円相当)を届ける方針を明らかにした。府によると、対象は約140万人。国の地方創生臨時交付金を活用し、予算規模は80億円。早ければ来年3月に届く予定。

 「超うれしい」。大阪市内でこども食堂を運営する山本仁巳さん(59)は素直に喜んだ。1日10〜15人の子どもが訪れ、必ず毎日お米を炊いている。「子どもたちには温かいご飯を食べさせたい。今は寄付で賄われているが余裕はない」

 NPO法人日本もったいない食品センター(摂津市)の高津博司代表理事も冬休み中の食料支給の準備に向けて忙しくしていた。「給食頼みのギリギリの家庭も多い。本当に助かるだろう」と語る一方、「炊飯器がない家庭もあり、水を入れるだけで食べられるアルファ米など、選択肢がもっとあっても良かったかも」。

 怒り心頭なのが府内の米穀店だ。創業100年を超える老舗の店主、種村元伸さん(57)は「食べ盛りのお子さんがいる家庭に府が米を届けたら、店で米が売れないようにならないか。知事にお客を取られた気分だ」と肩を落とす。同じく米穀店を営む大西一央さん(50)も「大阪の米屋同士で、この施策を何とか阻止しようと話し合っている。配るなというのではなく、お米券や現金支給などやり方はいくらでもあったはずだ」。

 ツイッター上でも吉村知事が発表した直後から「米10キロ」がトレンド入り。「戦時中やん、これ」「困っているのは子どもだけじゃない」など賛否入り乱れる事態に。まさに「令和の米騒動」の様相に発展した。

◆「選挙のための宣伝」疑う声も

 大阪政治ウオッチャーのジャーナリスト、吉富有治さんは「大阪府はどこでお米を調達して、どうやって配るのか。なぜ現金給付にしなかったのか、不思議でならない」と首をひねる。

 大阪府は今夏、1万円の「子どもギフト券」を配ったが、事業を請け負った企業は利用状況を明かしていない。「企業秘密」なのだという。そのためどう使われたか、外部から検証できない事態に陥っている。

 次々に疑問が浮かぶ大阪府の対応。米が支給されるのもデリケートな時期だ。吉富さんは「家庭に届く来年3月は統一地方選直前。時期が時期なだけに、選挙のための宣伝ではないかと疑いたくもなる」と話す。

 米の現物支給は東京都もだ。小池百合子知事は先月18日、住民税の非課税世帯にそれぞれ約25キロ分を配ると発表。対象になるのは約170万世帯で、事業費は296億円だ。

 なぜ米なのか。東京都生活福祉部計画課の畑中和夫課長は「食生活の基本で、保存も利く。アレルギーで食べられない人も少ないので」と説明する。

 新型コロナ以降、さまざまな給付金が飛び交い、「バラマキ」との批判も浴びた。生活に困る人に何をどう支給するべきか。

 政治ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「地域ごとにニーズは違う。地域に合った使い方をする流れはいい」としつつ「大阪府の件は議論を尽くしたのか疑問だ。もう少しさまざまな業界の声をひろい、最善の策を探るべきだった。議論の過程をオープンにするのが政治の基本。肝心の手続きが抜け落ちていた」と話す。